住宅ローンの審査業務の経験がある、元銀行員のタツヤです。
住宅ローンの審査を受けることなんて、一生に一回あるかくらいの重要なできごとです。そんなとても重要なできごとなのに、何の知識もないままに申し込むなんてリスクが大き過ぎます。
今回は、銀行30行の審査項目を調査しましたので、その調査結果や私の銀行員時代の経験も踏まえて、住宅ローンの事前審査が具体的にどうやって行われているのか、詳しく解説していきます。
Contents
事前審査と本審査の違い
具体的に事前審査についてお伝えする前に、そもそも事前審査と本審査は何が違うのか解説します。
採用活動で例えると、事前審査は書類審査で本審査が面接のようなイメージです。
本審査では、申込者に数千万円もの住宅ローンを貸しても問題ないかどうか、ありとあらゆる角度から検証していきます。
そのため、本審査では人的な労力も時間も非常にかかります。住宅ローンを申し込んできた人全てに本審査のような労力をかけていると、ものすごいコストがかかってしまうのです。
なので、事前審査では時間をかけずに、申込者が本審査をかけるだけの返済能力があるか、ざっくりと検証していきます。
具体的に、住宅ローンの審査では次の9つの項目を一つ一つ審査して、申込者に返済能力があるか調べていきます。

この9つの項目から、事前審査では年収・返済比率・融資率・信用情報・勤務形態・勤続年数の長さ・勤務先の信用力を調査します。
本審査の場合は、これらに加えて健康状態と物件の担保評価も加えて、事前審査以上にさらに詳しく一つ一つの項目を審査していきます。
それでは具体的に事前審査がどのように行われるのか、内幕を一つ一つ詳しく見ていきましょう。

7つの審査項目
- 年収
- 返済比率
- 融資率
- 信用情報
- 勤務形態
- 勤続年数の長さ
- 勤務先の信用力
年収
まずは各銀行の年収の条件について見ていきましょう。
- 23%:安定した収入
- 23%:200万円~300万円
- 20%:特になし
- 17%:100万円~200万円
- 17%:300万円~
※銀行30行の募集要項より作成 以下同
こちらは、メガバンク・ネット銀行・地方銀行など30の銀行の年収条件についてまとめたものです。
この図から読み取れることは主に以下の2点です。
- 300万円以上の年収を条件としている銀行は17%
- 安定した収入を条件としている銀行は23%
高額な年収がなくても申込みは可能
まずこの調査から読み取れることは、「住宅ローンの申し込みをするのに必ずしも高額な年収は必要ない」ということです。
なかには400万円以上の年収を申し込み条件としている銀行もありますが、そういった銀行はごくわずかで、年収条件が厳しい銀行でも300万円としていることころが多いです。
また、年収というのは一般的に夫(妻)のみではなく、世帯収入と考えることができるので、世帯収入で300万円というのはそこまで高いハードルではないと思います。
収入の安定性が重要なポイント
次に、年収の条件に、具体的な金額ではなく「安定した収入と答えた銀行が23%」もいることも重要なポイントです。
というのも、住宅ローンの審査では年収は高ければ高いほど良いというわけではありません。それより、「一定の収入を得続けられる安定性が重視」されます。
住宅ローンというのは、20年30年かけて返済していくものです。そのため、「ある年は年収1,000万円あるけど、翌年は100万円」というより「毎年安定した400万円」の方が審査では有利になる場合が多いです。
つまり、年収では「収入の高さ」だけではなく、それプラス「収入の安定性」も重要な評価の対象となるということです。
- 収入は高さだけではなく、安定性も重視される
- 収入が低くても安定性があればプラス評価、高くても不安定だとマイナス評価となる可能性がある
- 申込み条件としての最低年収は200万円以上としているところが多い
返済比率

返済比率とは年収に対する年間返済額の割合のことをいいます。例えば年収500万円で住宅ローンの年間返済額が100万円だと返済比率は20%になります。同じように年収500万円で年間返済額が200万円だと返済比率は40%になります。
返済比率は低ければ低いほど、家計に占めるローンの負担が少なくなり審査では有利になります。
銀行によって返済比率の基準は異なりますが、標準的な返済比率の基準は次のようになります。
年収 | 返済比率 |
---|---|
300万円未満 | 30%以下 |
300~400万円 | 35%以下 |
400万円以上 | 40%以下 |
つまり年収が350万円の人なら、返済比率を35%以内に収めないと審査に通る可能性が低くなるということです。
ここで注意が必要なポイントが2つあります。
- 金利は「審査金利」を使って計算する
- 年間返済額には住宅ローン以外のローンも含める
金利は「審査金利」を使って計算する
年間の返済額をシュミレーションする場合、多くの人がホームページなどに載っている金利を使うと思います。
ホームページなどでは、変動金利の場合0.5%~1%程度の非常に低い金利が提示されています。
しかし、実際に審査で返済比率を求める際には、仮に金利が上昇しても返済が可能かどうか検証するために、通常より金利が高い「審査金利」というものが使われます。
審査金利は具体的に、3.5%~4%程度の審査金利を使っている銀行が多いです。
つまり、自分の返済比率を調べるときには、3.5%~4%の金利を使って計算しないと意味がないということです。
具体例で見てみましょう。
- 借入金額:2,500万円
- 返済期間:25年
- 年収:400万円
金利 | 年間返済額 | 返済比率 |
---|---|---|
4% | 158万円 | 39.5% |
1% | 113万円 | 28.2% |
このように、借入金額と返済期間が同じでも、金利が異なると返済比率はこんなにも大きく異なってきます。
このケースの場合、年収400万円の人は返済比率を40%以内に抑える必要があるので、審査基準ではギリギリになります。
※自分の年間返済額を計算したい場合はこちら→返済プラン比較シュミレーション
年間返済額には住宅ローン以外のローンも含める

年間返済額とは住宅ローンだけを指すわけではありません。次の支払いも年間の返済額として加える必要があります。
- カードローン
- クレジットカードの分割払い、リボ払い
- 自動車ローン
- 教育ローン
- クレジットカードのキャッシング枠(※銀行による)
- スマホの分割払い(※銀行による)
つまり、住宅ローンの他に借入がある場合、その借入の返済額が多ければ多いほど返済比率が悪化して審査には悪影響が出るということです。
クレジットカードのキャッシングは使ったことはないけど、「万が一に備えて30万円までのキャッシング枠だけ作った」というような人もいると思います。
この場合、キャッシング枠を作っているというだけで借入があると見なされてしまう場合もあるので、注意が必要です。
融資率

融資率というのは、住宅購入費に対する住宅ローンの割合のことをいいます。言い換えてみれば、どれだけ頭金(自己資金)を出せるかということです。
- 住宅費:3,000万円
- 借入額:2,500万円
- 頭金:500万円
- 2,500万÷3,000万=83%
例えば、上の例の場合だと融資率は83%になります。頭金をたくさん用意すればするほど、融資率は低くなり審査には有利になります。
ただ、融資率は低ければ低いほど良いというわけではありません。融資率に関するポイントは次のようになります。
- 融資率を8割~9割以下に抑えることができればベスト
- 諸費用も込みで借入する場合は、融資率が10割を超えるので審査では不利になりやすい
フラット35に関しては、融資率が9割以下か9割を超えるかで審査への通りやすさも金利も大きく変わってきます。
そのため、フラット35に関してはできる限り融資率を8割以下に抑えるのがベストです。


信用情報

信用情報というのは、現在のカードローン・車ローンなどの借入状況や、過去のローンの延滞状況などの情報のことをいいます。
仮審査を申し込みする際は、申込者・収入合算者・連帯保証人(連帯債務者)の過去5年間の信用情報を調べられます。
信用情報の対象となるローンは次のものです。
- カードローン
- クレジットカードの分割払い、リボ払い
- 自動車ローン
- 教育ローン
- スマホの分割払い
スマホの分割払いは多くの人が契約していますし、あまりにも身近なものなので、カードローンなどに比べて支払いの延滞に対する意識が薄くなりがちです。ただ、スマホの分割払いの遅れも信用情報には悪影響をおよぼします。
信用情報に関して、具体的に注意が必要なのは以下のポイントです。
- 過去5年以内の返済の遅れ
- 現時点での消費者金融からの借入
- 過去10年以内の債務整理歴

返済の遅れに関しては、回数が1回または連続しない2回の延滞であれば大きく影響することはありません。しかし、合計3回以上の延滞や2回連続の延滞は審査では大きなマイナス要素となってしまいます。
また、現時点で消費者金融からの借入がある場合は、自動車ローンやスマホの分割払いなどと違い、借入があるというだけで審査には不利になってしまいます。
勤務形態
勤務形態に関しては、やはり「正社員が有利になるのは間違いありません」
住宅ローンの審査では「継続・安定した返済能力」がとても重要視されます。そのため、自営業や派遣社員・契約社員の場合、継続性・安定性という面で不利になってしまうのです。
勤務形態でみた審査への有利度は次のようになります。

契約社員や派遣社員であっても、専門性の高い職種の場合は通常より高く評価されますが、詳しい職種や仕事内容などの調査については、本審査で行われる場合もあります。
専門性の高い仕事をしている契約社員・派遣社員の場合は、事前審査の段階で専門性などについてアピールしておくことが必要です。
勤続年数の長さ
勤続年数に関しては、多くの銀行が申込みの条件として示しています。ただし会社員と自営業(会社経営)とでは状況が大きく変わってきます。
会社員の場合
勤続年数による申込み条件(会社員)は次のとおりです。
- 50%:特になし
- 34%:1年以上
- 13%:2年以上
- 3%:6ヶ月以上

申込みの条件として、1年以上としているところが34%と約3分の1です。2年以上を条件としているところは13%しかありませんでした。
このように、会社員であれば、長い勤続年数を必要とする銀行は非常に少ないです。
勤続期間が長ければ長いほど、審査には有利にはなりやすいですが、それ以上に勤務先の信用力や勤務形態、年収などを重視する銀行が多いです。
そのため、勤続年数に関しては、事前審査を出す銀行が条件としている勤続年数をクリアしていれば、ひとまずOKだという認識で大丈夫です。
自営業(会社経営)の場合
勤続年数による申込み条件(自営業)は次のとおりです。
- 47%:特になし
- 33%:3年以上
- 20%:2年以上

自営業の方は、会社員と比べると勤続年数(営業年数)への条件が厳しくなります。
会社員の場合、条件として最も多かったのが勤続年数1年以上だったのに対して、自営業(会社経営)の場合、最も多いのが勤続年数3年以上になります。
自営業は会社員と比べると、どうしても返済能力の安定性に欠けるとみなされてしまうので、その分長い勤続年数が要求されます。
勤務先の信用力
繰り返しになりますが、住宅ローンの審査では「安定・継続した返済能力」が重要視されます。
そのため、単に年収が高い、正社員であるといったことだけではなく、勤務先にどれくらいの信用度があるのかも審査では重要なポイントになります。
具体的に勤務先の信用力をランク付けすると次のようになります。

上場していない中小企業に勤めている方は、基本的には会社の資本金が大きいほど、信用力が高いとみなされます。
また、自営業や中小企業・上場企業に関しては、それぞれ経営状況が良いところもあれば悪いところもあります。しかし会社の詳しい経営状況については本審査で調査される場合が多いので、事前審査ではざっくり、自営業0点・中小企業3点・公務員5点などのように審査される場合が多いです。
審査手法には2種類ある

ここまで事前審査の際に、どういった審査が行われているのか項目ごとに見てきましたが、住宅ローンの審査手法には2種類あって、それぞれに特徴があります。詳しくみていきましょう。
- 要綱審査
- リスク軽量化モデル審査
要綱審査
要綱審査というのは、「商品要綱に照らし合わせて条件にあった人だけ審査に通過できる手法」です。
例えば、
- 年収:200万円以上
- 勤続年数:2年以上
- 勤務形態:正社員
- 返済比率:30%以内
このような条件があって、条件にあった人のみ審査に通過するというようなものです。
各銀行のホームページを見れば住宅ローンの商品概要説明書というものがあります。
要綱審査の場合は、商品概要説明書に審査条件をある程度のせているので、説明書に書かれている条件に合致していれば審査に通る可能性は高くなります。
特徴は、「あらかじめ決められている条件に合った人のみ通過できるので、分かりやすいがその反面、融通がききにくい」です。
要綱審査だと、例えば「転職でステップアップして、年収はアップしたけど、勤続年数が一年未満」というような方は審査に落ちてしまう可能性があります。
こういった融通がききにくいという面などもあり、近年では採用している銀行は少なくなりました。
リスク軽量化モデル審査
現在はこの審査手法を使っている銀行が主流になっています。リスク軽量化モデル審査とは、こむずかしい名前ですが、簡単にいえば、「良いところは加点して、悪いところは減点される手法」です。
- 年収:600万円→ +3点
- 返済比率:25%→ +4点
- 勤務期間:1年→ -3点
- 信用情報:延滞なし→ +5点
このような感じで、各項目ごとに加点減点を行い、点数が高ければ高いほど、審査が通りやすくなり、金利も低くなり、可能融資額も増えます。
この手法だと、申込者の属性を総合的に見ることができるので、一部項目で不利なところがあっても、他の項目が良ければ十分に審査に通過することができます。
よくある質問とその答え

Q.事前審査の期間や日数は?
事前審査にかかる期間は「当日~1週間」ほどです。
- メガバンク、地方銀行:3日~1週間
- ネット銀行:当日~3日
事前審査にかかる期間は、基本的にメガバンク・地方銀行など長く、ネット銀行の方が早い傾向にあります。

メガバンクや地方銀行の住宅ローンは、借主が住宅ローンの返済にいき詰まってしまった時に備えて、保証会社から保証を受けます。
そのため、保証会社の審査と銀行での審査と、二段階での審査を行います。
それに対して、ネット銀行の場合、保証会社による保証を受けないので、その分、審査のスピードが早いのです。
どうしても審査を早くしてほしい場合は、あらかじめ「急いで審査をしてほしい」と伝えておくのも良いと思います。
銀行の担当者は、他にも様々な案件を抱えているので、忙しかったりするとどうしも後回しにされてしまう場合があります。「この人は急いでいるんだ」と思ってもらえれば、優先的に審査作業に入ってもらえます。
Q.事前審査は複数出しても問題ないの?
事前審査は複数出しても問題ありません。
ただし、事前審査を受ける際は、「落ちたら次の銀行の審査を受ける」という手順を踏むより、「一度に複数の銀行に事前審査を出すほうが良い」でしょう。
というのも、銀行では事前審査をする際に過去の信用情報を調べます。その際に、どこの会社がいつ信用情報を照会したかも調べられます。
一度事前審査に落ちてから、また日をおいて別の銀行に審査を依頼すると、「この人は他の銀行で断られて、うちの審査を受けているのか」と判断されるかもしれません。そうなると、どうしても印象が悪くなってしまいます。
なので、複数の銀行で審査を受けたい場合は、一度に2~3の銀行に申し込んでみることをおすすめします。
また、審査に自信がない人はフラット35の審査を同時に受けてみるのもおすすめです。フラット35は民間銀行の審査手法とは異なってきますし、全般的に審査はそれほど厳しくありません。

Q.物件は未定でも大丈夫か?
全くの未定の状態ではできませんが、ある程度購入したいなと思う物件があれば事前審査を受けることができます。
事前審査が通ったあとに行う本審査では、売買契約書などが必要になるので、売買を契約している必要があります。
ただ、事前審査では販売チラシや見積書などがあれば問題ありません。
- 建売住宅購入の場合:販売チラシなど
- 新築の場合:見積書や間取り図
また、事前審査の申込書に「いくら借りたいのか、自己資金はいくら用意できるのか」を記入しないといけないので、そのあたりも明確にしておく必要があります。
Q.AI審査は普通の審査となにが違うの?
最近、住宅ローンの分野でもAIの導入が進んでいます。代表的なところでは、三菱UFJ銀行や住信SBIネット銀行でAIによる審査が一部行われています。
現在、AIによる審査が導入されているのは事前審査の一部分のみですが、AIが導入されることで審査期間の短縮が期待されます。書類の不備や人による追加の審査などが必要でなければ、当日中に審査の結果も知ることができます。
ただ、AIが審査するから今までと審査内容がなにか変わるかといえば、ほとんど変わりません。
AIによる事前審査では、入力された内容を元に、各項目をAIが加点減点していくことになります。各項目を調査して加点減点していくのは、現在でも行われている審査手法です。
今まで人間の手で行われていた作業を、代わりにAIが行うというだけで、審査方法が大きく変わるわけではありません。
本審査について詳しく知りたい方は次の記事をご覧ください。

以上、住宅ローンで事前審査を通す7つのポイントを元銀行員が徹底解説!審査に通らない、落ちたという人も必見…という話題でした。